VS IV Omnibus1 撃墜女王



 突き飛ばしたはずの手には──力が入っていなかった。

 逆に自分が、後方によろめいてしまう。

 結果的には彼から離れられたが、ジョウは壁に背中を預けることとなった。

「それは…いらない」

 震える首を、横に振って拒絶する。

「バカな女王だ…死神の方ばかり向いて」

 なのに。

 ケイは、目を細めて彼女を見ていた。

 一歩。

 近づいてくる。

 もう、ジョウには壁しかないというのに。

 そこに。

 すぐそこに──立った。

 自分以外の影が、自分を覆う。

「死神より…自分を見ろ。自分自身の命を」

 大きな手が。

 ジョウの左胸に、押し当てられる。

 瞬間に、大きく跳ねた。

 自分の心臓が。

「まだ、死神が持っていくには…イキがいいぞ」

 手のひらの鼓動を感じるように、ケイは目を伏せる。

 そのまつげを見上げたら。

 なお、ジョウの胸は足を速めた。

「大丈夫だ」

 まぶたが、上がる。

「お前さんは…死なないよ」

 薄く微笑みながら、彼は胸に置いた手を離した。

 確かにあったぬくもりが、ジョウの命から離れていく。

 あっと。

 その温度の消失に、身体が震えそうになった。

 ほんのわずかな、末端の温度に過ぎないそれは、ジョウに大きな喪失感を与えたのだ。

 けれど。

 手は、遠くまで行ってはしまわなかった。

 彼女の頬に、場所を変えたのだ。

 今度は──最初から優しい唇だった。