あの頃のように笑いあえたら

暫く2人で親子ペンギンを観察していた。
私はすぐ間近に感じる源を、少し意識しながら。

そして、そのまま視線を動かさないで源は静かに囁いた。

「……オレさ、母さんいないんだ」

賑やかな周りの声にかき消されそうな小さな声だったけど、私にはちゃんと届いていた。

「えっ?」

「……いとなと同じ、中2の時に。まあ、うちは病気だったけどな」

ーー いとな……。

話しの内容もだけど、源が初めて発した私の名前の、柔らかい響きに驚いていた。

「……そうなんだ。そうだったんだ」

「うん」

ー ーいとな。

文字で現すと、ひらがなのような優しさだった。

「じゃ、今はお父さんと2人?」


「うん……」


あれ?なんだろう、ちょっとした違和感。

なにか重たいものを抱えているような、そんな返事だった。

「どうかした?」

「……ううん、何も」

源はまだ、親子ペンギンから目を離さない。

私が源の横顔を見つめているのにも気づかずに。