あの頃のように笑いあえたら

その日は授業が終わると、菜穂たちに捕まらないように、私はサッサと教室から出た。

話したくないわけじゃないけど、あんな風にたくさんの人に質問責めにされると頭がパンクしそうになってうまく話せない。

外へ出ると、梅雨らしい雨雲からしとしとと雨粒が降り注いでいる。

いつもより自然と早足になっていたのだろう。早めに駅に着いてしまい、少し蒸し暑く雨の匂いのするホームで電車を待つ。

なんだか、今日は疲れたな。きっと今の私は下を向いてる。

ふぅ、と何回目かのため息をつくと不意に……


「いとな」


雨音の間から優しい声で呼ばれる。

ドキ……振り向かなくても分かる、その柔らかな声。

「源……」

振り向くとそこにある、柔らかな笑顔。

少し弱った心には、より一層暖かく。

「珍しいな、1人か？」
「あ、うん」

何気ない会話だけで、私が癒やされていることを源は知らない。