それは、小さな街の小さな恋。



「ただいま戻りましたー。」

「お帰りなさい。」


診療所の戸を開け、正面に構える受付に声をかけると加代さんや看護師の皆が返してくれる。


いつも通りの暖かい雰囲気に思わず笑みがこぼれそうになるが、今はそれどころじゃなかった。


「休診の連絡しなきゃ。あと張り紙も。」


自分の机に戻るや否や予約者リストを確認しようとすると、隣の加代さんに制された。


「いや、かのちゃん。午後は休診にしないんだって。」

「え?!どういうこと?」


もしかして、お父さん行かないことにしたの?

お世話になった人だから、どうしても最後に挨拶がしたいって言ってたのに。


「ほら、見てごらん。」


加代さんがそう言って指差す先には、いつもお父さんが椅子の上で踏ん反り返っている診察室。


その診療室には、お父さんの姿ともう一人、若い男の姿があった。