「昨日は、ありがとう。すごく助かった」
朝いつものように迎えに来ていた透に伊都がお礼を言った。


「ああ。いいさ、そんなの。それより、バイト決まったんだって?」

「うん」昨日のうちに連絡だけしておいてよかった。

「よかったな」


「うん。昨日は、ありがとう」

笑いかけたけど、透の顔は厳しいまま伊都のことを見ている。
「昨日俺が、お前の家出たの、九時過ぎてたぞ」

「うん」伊都は、何となく雲行きが怪しくなって下を向く。

「ちょっと遅くないか?」


「ごめん」
透の背中に手をまわして、ぎゅっと抱きしめようとするが、
伊都の背では低すぎて届かない。


「俺に謝っても仕方ないだろ?陸と海のこと忘れるなよ」

「うん…」

透も相当怒ってる。
透の言い分も分かる。
でも、伊都はずっと弟の側にいるより、こうしてお金をもらったほうが二人のためだと思っている。
でも、母が居なくなってから、子供だけで朝まで過ごすなんて、うちでは当たり前のことだ。

両親揃ってる透の家では、考えられないだろうけど。



「昨日は、面接だけじゃなかったの?」



「その予定だったけど、みんなお腹を空かせてるから、簡単なものくらいなら作れるってことになって」



「わかった。もういいよ。それで…今日はクラブないんだけど。
帰りに、どこか寄っていく?」



「ごめん透、私、今日から仕事入ってるんだ」