「多樹さんだって、漢字はこっちに来てから習ったんでしょ?」
伊都は、みんなが語学の天才っていう多樹はどうしてるのかと思って、引き合いに出した。

「ああ、日本に向かう飛行機の中でな」

「飛行機の中って、十時間程度で何ができるんですか?」

「日本語は特殊で、面白いと思ったな。文法を一通りやって成田に着いた頃には簡単な会話くらいは理解できるようになったかな」


「あれ?でも多樹さん、ものすごく難しい漢字まで、読みこなしてますよ」
ユウが興味を持って聞く。


「ああ、俺、日本の古典文学とか、漢詩とか、わりと好きだから。源氏物語も万葉集も原書で読むよ」


「げっ…信じられない」と伊都。


伊都は、ケンサクが書いていたノートを見た。

教科書に載っている漢字を書き溜めて覚えている。

「相当重症ですね」

「うるさい!中身は頭に入ってるんだってば!」

伊都は鞄の中から電子辞書を取り出して、ケンサクの前に置いた。

「使い方を教えますから、これを使うといいですよ」

「あ…ありがとう」

「それから、その国語力だと他の教科も危ないんじゃないですか?」

「うっ…そうかも」

「じゃ、少し手伝いますから理貴さんに許可取ってきますね」