理貴は寝ぼけているのではなく、しっかりと伊都の顔を見つめていた。

理貴の顔が近づいてくる。
伊都は、理貴の胸に手を当てて拒絶しようと思ったのに、理貴にじっと見つめられて動けなくなってしまった。

恋人同士のようなキス。
抱き寄せられて、角度を変えて何度もキスされる。


「坊ちゃま、車出しますよ」

理貴が返事をしないので、
運転手がエンジンをかけようとした。


バーンと車をたたく音がして、伊都は正気に戻った。

「理貴さん、止めてください」

理貴は、お構いなしに伊都を腕の中に引き寄せる。

「いい加減にしろよ、近所迷惑だ」

「ん?」

キスを止めて、理貴が反応した。

「お知り合いですか?」
運転手が尋ねた。


「弟です」

「弟?君の」理貴は家の中から出てきた少年を見つめている。

車の窓が開けられた。


家の中から出てきたのは、陸だった。

陸が、二人に聞こえるように言う。

「何してるの、早く家に入ったら」



「やぁ……弟君」理貴がふざけた。

陸は、だいぶ頭に来てるみたいだ。

「何やってんの、早く出ろよ」

陸が、すごい力で伊都の腕を引っ張った。


陸は、伊都を車から出すと、車のドアをばたんと閉めた。


「こんなところに止められると、迷惑だから出てって」
と運転手に言ってタクシーを走りらせた。


「入って」口調は穏やかだけど、
怒っている陸はいつもそうだった。


陸は、伊都を睨み付けている。

「いったい、何やってるの?いつも、あんなことしてお金稼いでるの」

「違うったら…たまたま、あんなことになっただけで、いつもはあんなことないの 」

「伊都に、あんなことまでしてもらったお金で、僕は大学なんか行きたくない」

「陸!」
伊都が追いかけても、陸は部屋に入って出てこなかった。