伊都には、考えがあった。
伊都も母がいなくなった時、電子レンジを使ったレシピで料理を作った。
父が、子供たちだけでいるとき、コンロの火を使うことを許可しなかったのだ。
伊都は、家に帰って、初めて家族に食事を作った頃の、ぼろぼろになった料理本を探しだしてきた。
それを見ると、苦しかった思い出が急に溢れてきた。
母がいなくなって、誰も食べることができなくて、父が買ってきたお弁当を口にした陸が、お母さんの料理が食べたい、と呟いた時の、父の寂しそうな顔。
この本を手にして、少しずつ、お母さんの味になるように、工夫したこと。
それも、この本があったからだ。
「伊都、どうしたの?」
気づいたら、料理本を抱きしめて泣いていた。
あの辛い時期を乗り越えるきっかけを作ってくれた本だ。
そうだ。仕方なく、味気ないお弁当を食べている子供たちに、子供でもできる、料理をかんがえよう。
「陸、ごめん……ちょっと母さん思い出してた」
「うん」陸にとっても辛い時期だった。
珍しく、優等生の担任の先生に心配された。
「そうだ。陸、料理作ってみてよ」


