俺の紹介で話をするのに、無視されるって……そんなことしたら、ずいぶん損をすると思うよ。そのシェフは。

理貴は、伊都のこういうところが好きだと思う。


「よかった。もう、こうやって笑ってもらえないかと思った」
理貴は、しみじみ言う。


「どうしてですか?」

理貴は、驚いた。
「君のこと怒らせたと……」


「怒ってません」


「そんなこと言うと、また同じことするよ」
あるいは、もっとそれ以上のことを。


「それは、止めてください。今朝の事を私が怒ってないと言ったのは、あなたが病気だったからです」

理貴の顔が凍りついた。

気持ちを受け入れてくれたわけじゃないんだ。

理貴は、伊都の方に手を伸ばして軽く頬に触れた。

理貴を見つめるまっすぐな目。


そんなこと言われると、余計に屈服させて自分のことが好きと懇願させたくなる。


「今すぐにでも、君のこと泣かせてみたい」頬から首筋に指で触れる。

どんな反応するのか見てみたい。

怒るだろうか?
それとも、離してと泣くだろうか。



彼女を引き寄せようとしたとき、ガチャって音がして、ドアの開く音がした。


「理貴?居ないのか?」

そして、パチと音がして
リビングの明かりがいっぺんに明るくなった。


「あれっ?お前、熱だして倒れたんじゃないの?」


「この人は?」

金髪?背の高い男性が恭しく頭を下げた。
「初めまして。来栖と申します」