「今日は、何だか雰囲気違うね」
映画館を出てすぐに、透が言い出した。


「うん。たまには、おしゃれして透に会いたかったから」

透だってクラブの帰りにしては、ちゃんとした格好をしてくれてる。つくづく着替えてよかったと思う。

「キレイだね。よく似合ってる」


「ありがとう」

伊都は、理貴に感謝した。
あのまま来てたら、きっと透をがっかりさせてしまっただろう。

「髪も、メイクもキレイだけど、それ自分でやったの?」
深く考えないで言った言葉だった。


透が伊都に不満を持つとしたら、こんな風にたまには、着飾って欲しいってことだけだったから。

「これは、やってもらったの」


「沙希ちゃん?」
伊都は曖昧にうなずいた。


「その服もバイト代で?」

「ええ…」
透はそのシフォンのワンピース、どかで見た記憶があるなといった。

大学生の姉が、雑誌を見ながら欲しいって言ってたワンピースに似てると。


「それって、もしかして、そこのショッピングモールで買った?」

「ええ……」


「じゃあ、姉ちゃんが言ってたやつだ。高かっただろ?」


「うん…」


「どうしたの?」


「何でもない……そんなのもういいじゃない、せっかく来たんだから楽しもうよ」

透も何か変だと思ったけれど、それより伊都に会えたことが嬉しかった。
だから、深くは追及しないことにした。