「あたしが高熱で倒れた時、『すぐに解熱剤を処方されてたから熱の下がりが早かった』って病院で言われたらしいんだけど、それってなんていう解熱剤?」

さぁっと風が吹いて一花の前髪が揺れた。
切れ長の瞳が見えた。

「さあな、普通の解熱剤のはずだが。欲しければ、ログハウスにまだあれば今度持って来よう。」
目の前にケーキの箱がすっと掲げられ、それを受け取る。
「大丈夫、ありがとう。」
「・・急なことだったからな。」
「え?何が?」
「なんでもない。ほら、もうそこだ。ここで大丈夫だろう?」
家のほうを示す。

一花はもう来た道のほうに向き直っていて、その背中が闇に溶け入りそうに見えた。
「また、」
背中がぴくっと動きを止めたみたいだった。

「またケーキ作るから、一花、食べてね。」
一花の顔がくるりとこちらを向いた。
微笑が見えた。ふわりと舞う桜の花びらみたいな微笑みだった。

「たまにでいい。」
そういうと一花は闇に溶けていった。

薄いピンクの花びらがあたしの肩にも落ちてきていた。