コポコポコポ、、、


コーヒーの香りが広がる店内。
六車はいつものようにカップを磨いていた。

カラン、コロン。
「すみません、このケーキセットって」
「あ、すみません、今はそちらのご用意はないんですよ。」
六車は女性客の手にした雑誌を見て言った。
七花のケーキが爆発的に人気になってそれが掲載までされてしまった雑誌だった。
もうこんなやり取りは何度目だろうか。

「ぇー、ないんだって、残念だね、、」
「このケーキ食べたかったね。」

カラン、コロン、、



六車はため息を吐いた。

「六車のため息なんて珍しすぎるよね。
僕だって、わからなくはないけどさ。」
くるー、っとスツールを回し、郷太はカウンターにうつ伏した。
「何か飲みますか?」
「ぅー、、」
「私もその気持ち、わからなくはないです。」



「決めた!」

カラン、コロン、勢いのいい音がした。


「何ですか?」
ドリンクの棚に伸ばしかけた手を六車は止めて
振り返った。スツールは無人でくるくると回り、郷太の姿はもうなかった。


「決めたって、、頭首の決定ですよ?」
窓の外、黒いバイクに跨った郷太が手を上げて走り出していった。

「やれやれ、彼はこうと思ったらじっとしていられないタイプでしたね。」