「口移しじゃないと。」

「はあ?」

あたしは大きく目をぱちくりさせた。
花粉のせいじゃない。だって、言われた意味がわからなかったから。

「知らなかったの?」

郷太はあたしをまじまじ見て、自分の口元に手をやった。「やっ、、失敗した、、」うなだれる。



「なんだよ、飲ませてくれたって言ったじゃん。今、、」
「だって、そうでしょ?」
「そうだけど、そうじゃなくて、、あー、、」郷太は天井を仰いだ。


「あの時は、まぁ、しょうがなかったんだよ。
緊急だったし。
、、そうだよ、一花がお前に薬を飲ませたんだよ。だけど意識のない相手が飲みこめるわけないだろ?
口移ししか方法がなかった。それだけ。
だから、その、落ち込むとか、一花を恨む、とかよそよそしくなるとか、そういうの無しね?
僕から聞いたっていうのも、、無しね。ok?」

郷太はまくしたてるとあたしの肩をばんばん、叩いた。
「大丈夫?」

きっとあたしはぽかん、と間が抜けた顔をしてたのかもしれない。
郷太は言うだけ言うと、「それから電話でも言ったけど、僕の訓練もしばらくおやすみになったから。」と付け加えた。
理由は言われた気がするけど、何だったか、、


頭痛がひどくなってきていて、よく覚えていない。




痛む頭に、夜桜と一花の姿が浮かんでは消えてを繰り返していた。