「お、お前ホントにグーをだすんだろうな!」



乱同がまたまた吠える。


恐いのは分からんでもないがさすがに吠えすぎだ。



「ああ、そうだよ。僕が、君に嘘をついたことがあったかい?」



その問いの答えを乱同が考えようとする前に奥田は続ける。




「いや、なかった!僕はいつも君の言う通りだった!」



確かに今という状況になるまでは奥田はずっと乱同の言いなりだった。



嘘をついていないのは嘘がばれたらそれこそひどいめにあうからだ。



「僕はいつもいつもいつもいつも君に対して誠実であり、忠実でいた!」



奥田の言葉に乱同は‘はっ’とした。



乱同はほとんどの学校生活を奥田をパシりにしたり、いじめたりで過ごしてきた。


止めるものなんかいなかったから、さらに乱同は調子に乗っていった。



誰も彼のすることに意見や反論できるものはいなかった。



たとえそれが正しくなくても正しいことにしなければいけなかった。



もう、今ではそれが日常化してきた。


今思えば恐ろしいことだ。




そんなことから乱同は奥田の言葉に少しの信用を持ってしまったようだ。


人を騙すのはとても難しいことだ。



だが騙す方のことを少しでも信用していたなら、


そいつを騙すことなど容易いことだ。




「僕は君のために命を捧げよう!君のために死ぬことができるなんて光栄だ!」



心にもないことを奥田は続けている。



普通ならバカかと、微塵の信用も持たない言葉なのだが今となるとその言葉にも信用を抱いてしまう。


乱同はもう奥田の手に落ちていた。


奥田が追い討ちをかけていく。



おそらくもう少しで乱同は………………。




「必ず…………勝ってくれよ、乱同くん。僕は君を信じているから……………………」



おそらく乱同を今から殺すという罪悪感からの涙をそこで奥田は流した。



完璧だった。


完璧なまでの、穴のない演技だった。



乱同の目には少しだけだが涙がにじんできていた。




終わった。



このジャンケンはもう終わった。




乱同は負けた。


奥田の心理戦に見事にはめられてしまった。