アップテンポで、軽やかに踊るような楽しいメロディ。

いつの間にか、なにかに取りつかれたように夢中になって弾いていた。

曲名は思い出せないけれど、何度も何度も練習したから、指が覚えているようだ。


明るい曲を弾いたおかげか、落ち込んでいた気持ちが少し浮き上がってきた。


壁掛けの時計を見ると、そろそろ晩ごはんの支度にとりかかったほうがいい時間になっている。

その前にいつもの日課を片付けてしまおうと、私は階段を上がって、二階にある自分の部屋に入った。


鍵をかけてある一番上の引き出し。

その中には、誰にも見せたことのない、秘密の日記帳が入っている。


表紙には、『No.5』の文字。

五冊目の日記帳ということだ。


小学六年から書き始めているから、だいたい一年で一冊ずつのペース。

この五冊目は、今年の二月末から始まっているので、まだノートの初めのほうだ。


『学校で、とても悲しいことがあった。』

今日の日記は、そんな書き出しになった。