「お前は俺といたらいつか絶対に苦しむことになる。お前の父親はきっと俺を許せないし、受け入れられない」


自分の気持ちをうまく伝えることができる言葉を思いつけなくて、だから私は雪夜くんの手に触れた。

触れ合った温もりで私の気持ちを伝えたかった。


「当たり前だよ。大切な人を死なせたやつの子供なんて、顔を見るだけでも憎いに決まってる。お前は家族が好きだから、自分の父親にそんな思いはさせたくないだろう」


夏とは思えないくらいひんやりとした雪夜くんの手に、自分の手を添わせる。


「美冬」


雪夜くんが私の名前を呼んで、私の手をぎゅっとつかんだ。

この声に呼ばれるのが大好きだった、と思い出す。


「お前に嫌な思いをさせたくない。お前を傷つけるもの、苦しめるものから守りたい。……俺はずっとそう思ってた」


雪夜くんの顔が歪んだ。


「でも……美冬をいちばん傷つけて苦しめるのは、俺の存在だったんだ。それを知ってしまった。だから俺はお前とは一緒にいられない」


私は彼の手に頬を寄せ、「ちがう」と何度も繰り返す。

それでも雪夜くんは静かに首を振るだけだった。


「なあ、美冬。全部、なかったことにしよう。何も知らなかったころに戻ろう。俺のことは忘れてくれ」


嫌だ、と叫びたかった。

私は雪夜くんと離れたくない、と泣いてすがりたかった。


でも、雪夜くんの次の一言で、私は何も言えなくなってしまった。