それを手に取った瞬間、頭が破裂しそうな痛みが襲ってきた。


再び晴れかけた靄が戻ってくる。

つかみかけた記憶が、指の隙間からこぼれていく。


だめだ、思い出さなきゃ。

どうしても、諦めるわけにはいかない。

大切な記憶を、もう二度と手離したくないから。


痛みに息も絶え絶えになりながら、ゆっくりと日記の表紙をめくると、ふいに、頭の中に声が響いた。

地の底から湧き出る泉のような、天の雲間から降り注ぐ光のような、不思議な声だ。


『――思い出すな』


と、その声は言った。


『思い出してはいけない。思い出さなくてもいい。思い出すな……』


諭すように、洗脳するように、祈りのように、呪いのように、不思議なその声は繰り返す。


『お前は誓っただろう。全てを忘れる、と。もう二度と思い出さない、と……』


でも、だめなんです、と私は心で答える。


私が忘れたものは、忘れてはいけないものだった。

だから、どうしても思い出さなきゃいけない。


『後悔するぞ』


声が言った。

気遣っているようにも、嘲笑っているようにも聞こえた。


『思い出してしまったら、お前は必ず後悔する……』


それでもいい。

思い出して後悔するとしても、それは、このまま忘れてしまう後悔に比べたら、きっとずっと軽くて些細で、取るに足らない。


唐突に頭痛が止んだ。


私は深呼吸をして、日記に目を落とす。