それなのに、次の日元気に講義に出席した私に、『バカは風邪引かないってよく聞くけど、あれは嘘だったんだな』なんて言うのだ。おかげで感謝の言葉を言いそびれてしまった。だから、バレンタインデーにはチョコレートに感謝の言葉を添えて渡そうと思ってたのに。

 あーもう。大輝なんて知らない。もうどうだっていい。どうだっていいんだから!

 大輝のことを頭から追い出そうと大きく首を振った。講義室から出て、友達の麻里と待ち合わせている食堂に行く。窓際のテーブル席に座っている麻里の姿を見つけ、窓の外をじっと見ている彼女に「お待たせ」と声を掛けた。

 麻里が視線を窓の外からゆっくりと私に向ける。

「あー、有純」
「なに見てたの?」
「大輝が池田さんと歩いてったから、どうなるのかなって見てた。ふたり並んで校門を出てっちゃったよ」
「あー、うん。さっき講義の後で池田さんが大輝を呼び出してたから」
「池田さんが大輝をねぇ」
「池田さんかわいいし、お似合いじゃない」

 私は投げやりな口調で言った。麻里が含み笑いをする。

「まあ、大輝って黙ってさえいればイケてるよね。でも、いいのは顔だけでしょ? 口はありえないくらい悪いし。あんな顔だけ男のどこがいいんだか」