「おおっと失礼、今のは失言だったな。有純は女に分類されないんだったっけ」
「ほんと、失礼ね! 私のチョコを期待したって無駄なんだからねっ」
「んだよ、有純の義理チョコなんかほしくねーっつってんだろ」

 大輝がふてくされた顔で言って、帆布のショルダーバッグを乱暴に取り上げた。それを斜めがけしたとき、通路にひとりの女子大生が立った。セミロングの明るめの茶髪を緩くカールさせ、大きな目をしたかわいらしい女の子だ。直接話したことはないけど、次の大学ミスコンの優勝候補だと学内でも評判の池田(いけだ)さんだ。

「あの、木ノ崎(きのさき)くん、ちょっといいですか……?」

 池田さんが頬をうっすらと染めて、大輝に言った。

「んー?」

 大輝が間延びした声を出して、チラッと私を見る。

 なんで私を見るのよ。俺はモテるんだとでも言いたいわけ?

 ジロッと見返したら、大輝が視線を池田さんに戻した。

「いーよ。なに?」
「あの、外に来てもらってもいいですか……?」
「別にいいよ」

 池田さんが緊張した面持ちのまま歩き出し、大輝が思わせぶりに私を見たが、すぐに池田さんの後に続いた。