「ハッ…了解致しました」


キュリオが睨んでいる方向へと走り出したブラスト。
幼い姫があの場にいなかったということは…恐らくキュリオではなくスカーレットを選んだのだろう。


「キュリオ様の足元に隠れていたあの小さなアオイ姫様が…」


移動するたびにキュリオの衣の裾を掴みながら足元に纏わりついていた幼い少女。




"やぁブラスト。たまには息抜きをしたらどうだい?"


穏やかな笑みを湛えた銀髪の王が休みなく鍛錬を続けるブラストに声をかけてきた。


"…キュリオ様!"


ブラストは額に光る汗を腕で拭いながら剣を鞘に納め、小走りに駆け寄っていく。


"申し訳ございません、ご挨拶もせず…"


"いや、君がいつも真剣なのはよくわかっているつもりだ。私こそ鍛錬の邪魔をしてすまなかったね"


"…邪魔だなんてそんなそんなっ!!こんな汗臭いむさ苦しい場所に来ていただけるなんて恐れ多いと言いますか…なんと言いますか…"


汗にまみれた自分が清らかで美しいキュリオと視線を交える事さえ恥じらいを感じてしまうブラストが視線を下げた先には…


"……?"


キュリオの膝あたりで何かがもぞもぞと動き、愛らしい幼子がひょっこりと顔を出した。


"あ…"


思わず声を上げたブラストと目が合うと、幼子は珠のような肌に満面の笑みを浮かべて一歩踏み出そうとするも、その手はキュリオの裾を掴んだままだった。


"ふふっ可愛いだろう?
アオイは人が好きみたいだが、この手を離す勇気はまだないみたいでね"


愛おしげにキュリオの手が幼子の頭を撫でると、降ってきた優しい手にアオイは嬉しそうに縋り付く。


"噂には聞いておりましたが姫様は本当にキュリオ様べったりですね。しかしそれがまた何とも可愛らしい…"




"そうだね…"





"いつかこの手が離れる時が来たら…その時は私が掴んでしまいそうだよ"