「まさかその優しさを愛情だと勘違いする者がここにもいるとは思わなかったな」


キュリオの澄んだ空色の瞳がまるで氷の青をあらわすかのように冷やかな眼差しに変わり、鋭利な切っ先で貫くようにスカーレットを見据えている。


「"ここにも"とは…随分罪作りな…」


スカーレットはアオイを思い浮かべながら、彼女の笑顔に夢中にならざるを得ない男たちを想像し憐みの笑みを浮かべた。


「…お言葉ですがキュリオ様、そのように魅力的な"花"を放置していては…いつか悪い男に手折られてしまうのでは?」


「何も知らぬというのは幸せなものだな」


突如、挑発的なスカーレットの言葉とは裏腹に物悲しそうに瞳を閉じたキュリオ。


「……」


意味ありげな言葉を呟いた銀髪の王にスカーレットは眉をひそめた。
やがて息を吐いたキュリオの瞳が見開かれ…


「それを言うなら男ばかりではない…」


「…何の話です?」


急に話題が逸れたと感じたスカーレットの眉間には深い皺が寄せられていく。

すると…




「君の姉、ウィスタリアのかつての愚行はその花に向けられたものだからだ」




「…え…?今、なんと……」


スカーレットが首をかしげるのも無理はない。半狂乱のウィスタリアが侍女に大怪我を負わせたとしか彼女は聞いていないからだ。

恨みにも似たキュリオの口を突いて出た衝撃の真実。
ウィスタリアの数十年前の事件にアオイが関係しているとは夢にも思わなかったスカーレットは茫然と立ち尽くしてしまった―――。