「アオイ…これ、俺に?」



「あ……」



すでに用意されていた紅茶に口をつけていたスカーレットとマゼンタ。
彼女らがキュリオに入城を許可された時点で、すでに他の侍女が動いたのだろう。

そして茶葉の銘柄が違うものなのか、スカーレットが口にしている紅茶は赤みが強いものに見えた。


「なぁに?もしかして最近入った侍女?お茶はもういいわよ」

(それに何?この恰好…)


マゼンタがうっとおしそうに紅茶を傾けながらアオイの手元と露出度の高い身体を見つめる。


「は、はい…申し訳ありません、出直します」


キュリオに仕える侍女はやはり完璧だった。
王の動きを見ては指示が出る前に動き出す。おそらくスカーレットとマゼンタが席について早々出されたに違いなかった。


(捨てるのはもったいないし、自分で飲んじゃおうかな…)


お礼も兼ねてと思っていたスカーレットへの行為が裏目に出てしまい、自然と肩が下がる。

このまま自席に戻ればキュリオに不審がられてしまうため…やむを得ず、もと来た道を行くしかない。

しかも次の競技までの時間を考えればそんなに猶予もないはずなので早歩きになってしまう。


用途として役割を果たせなかったカップとソーサーがアオイの手元でカチャカチャと寂しげな音を響かせる。


「…スカーレットさんへのお礼何にしよう…」


望まれているものでお礼をと考えていたアオイだったが、先読みの出来ない自分が犯しそうな単純ミスをまたも繰り返してしまった。

炊事場に到着し、扉を開けた先で銀のトレイを置いたアオイは…


「渋くなっちゃったかな…」


ティーポットの蓋を開けると嗅覚に刺激された口内に唾液がにじみ出てくるような感覚に襲われ、飲み頃を過ぎた紅茶であることがすぐにわかった。


「…お砂糖少し多めに入れればきっと大丈夫…」


とても人に出せるような状態ではなくなってしまったが、紅茶には変わりない。
アオイは伏せていたカップに紅茶を注ぎ、砂糖へと手を伸ばした。


すると…



「俺のために淹れてくれた紅茶を独り占めなんて…アオイは意地悪な子なの?」



肩越しに声をかけられ、驚いたアオイの肩がビクリと上下する。そして振り返ったアオイが見たものは…



「…っ!スカーレット…さん?」