「……」

(スカーレットさんは赤組が勝ったらって言ってたけど、協力してくれたんだもの…お礼は当然だよね)


キュリオから目の届くところにいるようにと言われたアオイだが、慌ただしい会場の準備に紛れて城の中へと戻ってきていた。


そしてジルたちの使う厨房とはまた別の、侍女らがよく出入りしている炊事場の扉を開けると手際よく湯を沸かし始める。


「ティーセットはこっちかな?」


キョロキョロとあたりを見回したアオイは頭上にならぶ棚の扉を開きながら、綺麗に並べられたアンティーク調のカップとソーサーを見つけて笑みを零す。


「あった!お客様用のセット」


アオイは可愛らしい淡い花をあしらったカップとソーサーを棚から取り出して銀のトレイにのせると、火をかけたポットの湯気が立ち上がるのを横目で確認しながら茶葉を用意する。


「あとはティースプーンとお砂糖っと…」


やがて湯が沸いたのを見届けたアオイはティーポットとカップを温めるために一度お湯を注ぎいれる。


「まだ時間あるかな?」


扉へと視線を向けて外の様子を探ってみたが…


「アレスの声は聞こえないみたい。次の競技は確か…」


「っといけない!今はお茶の準備が先だよね」


アオイはそれぞれの湯を捨ててからティーポットへと茶葉を入れ、湯を注ぐ。
ふんわりと立ち上がる茶葉の香りをゆっくり吸い込むと、今が運動会の真っ最中とは思えないほど心が安らいでいく。


「…いい香り…」


ポットの中でその身をたゆたう茶葉が湯にその色を濃く滲ませていくと、より上品な香りがあたりを包んだ。


「スカーレットさんのお口に合えばいいな…」


紅茶を淹れることを幼い頃からキュリオに習っていたアオイの手順に狂いはない。しかし…