「アオイさん!キュリオ様が動き出しましたっ!!俺たちも頑張って…っ…」


「君も頑張りなよ」


突如カイの視界に広がった燃えるような赤が、なぜか彼に挑発的な印象を強く残す。


「…あんた……」


その女性が女神一族のスカーレットだということを理解するまでに数秒とかからなかったカイ。
それもそのはず…遠くから見たときにはわからなかったが、間近で感じる彼女のオーラは常に全神経を辺りに張り巡らせている手練れの戦士のそれと全く同じだったからだ。


(…緋色の髪…彼女はたしか二の女神・スカーレット…)


「ハチマキを持たない者は運動会に参加出来ない決まりのはずですが?」


顔と髪の色を確認したカイがあからさまに敵意をむき出しにした表情で言葉を発すると…


「スカーレットさんのハチマキがなくても赤組ってすぐわかるし途中参加も大丈夫なはずでしょ?」


両手いっぱいに赤い玉を持った笑顔のアオイが彼女の後ろからひょっこり姿を見せる。


「それにキュリオ様が本気を出しているのなら尚更、協力者は大歓迎なんだからっ」


(この髪の色も役に立つことがあるんだな…)


アオイに笑みを向けられ、わずかに表情を曇らせたスカーレットだったが…


「まぁ…そう言ってくれるのはお前だけだと思うけど…嬉しいよ」


すぐに目元を緩ませたスカーレットがアオイの頭をよしよしと撫でる。
昨今、女神一族の横暴さにキュリオを始めとする彼の従者たち、さらには民たちの中でもまず…スカーレットらを良く思っている者はいないからだ。



「……?」

(スカーレットさん…?)



他人の感情に敏感とは言えないアオイだが、スカーレットの手から感じたのは寂しさや悲しみ…なぜか褒められたというより求められている気がしてならなかったアオイだった―――。