「疑問に持つ者ってお城の皆のこと?」


「いえ…ここの皆はそのような考えを持ち合わせておりません。しかし…姫様のご友人方は驚かれるのではないですか?」


「……」

(そういえば…ミキやシュウはお父様の話を聞くといつも声を上げて驚いていたっけ…それじゃあ…私とお父様の関係は普通じゃないって事?)

アオイには何が普通なのかわからない。

偉大な父の愛に包まれて外の世界を知らずに生きてきた彼女は比べる相手がいなかったからだ。



(…普通って何…?)



まさか楽しい運動会の最中に考え事をしてしまうとは思わず、アオイは準備の整いつつある玉入れ競争の会場へと向かってくる人の波をぼんやりとながめている。

そしてその中に麗しい悠久の王の姿を見つけた。相変わらず女官や侍女たちが彼を取り巻いていた。


「……」


アオイの視線に気づいたキュリオだが、隣りにカイがいるとわかるとその瞳は別の方向を向いてしまった。


(お父様…)


すると、キュリオの傍にひとつの人影が近寄ってくる。

若い家臣の男が何やらキュリオへと話し込んでいるが、やがて王が考えるような素振りの後、静かに頷き…その視線が一瞬、こちらに向けられた気がした。


(なんだろう…)


一礼して姿を消した家臣の背をアオイが目で追っているとカイの声が届く。


「アオイ姫様、そろそろ始まります。俺の言ったことは心のどこかに置いておいてください」


「うん…」


見慣れた心地の良い笑顔を向けられ、小さく頷いたアオイだが…

にわかにあたりが騒がしくなっている事に気づいた。


「なんでしょう…」


気付いたのはカイも同じで、彼は早くもその原因がどこにあるかを突き止めた様子だった。