アオイが世間知らずなのか、二人が大人びいているのかと問われれば両方なのかもしれない。そうは言っても前者のほうが大きく関係しているとは溺愛しているキュリオを始め、城の者たちは決して思わないだろう。
真っ直ぐに日の当たる場所で過ごしたこの娘に、闇の部分や大人しか知らない世界を見せないよう育てたのはキュリオの意志だからだ。


(結局こうやって徐々に大人になっていくものなのか…)


急激な寂しさと不快感が胸を締め付ける。
アオイは子供のまま自分の腕の中だけで笑っていて欲しいと望むキュリオは、大人になっていく彼女が今にもこの手から離れていきそうで怖いのだ。


「…お、お父様?」


深刻に悩んでしまったキュリオの顔色を伺いながらアオイは隣りの椅子に腰かける。


「……」


キュリオはまるで偏頭痛を抑えるようにこめかみに指をあてたまましゃべらなくなってしまった。


"いい?アオイ。あんたがサディストって言葉を知らないならお父様の前で絶対言っちゃだめだからね!?"


"どうして?"


"そりゃあ…それが教育上悪いとか思ってる親は多いよ!別に深い意味があるわけじゃないから偏見だと思うけどね?"


"まぁな…アオイの親父が古臭い考えなら言わないほうがいいかもなー…"


"古臭い考えってお年を召した方の考えってこと?"

(お父様…五百歳以上……)


"そーそー!!アオイのお父様っていくつなの?そういうのに理解あればいいんだけど…"


"え゙っ!?…アラン先生くらいかなぁ…!?"


"ん?アラン先生って二十代前半でしょ?計算合わないっての!!"


ミキがそう言うのも無理はない。もし父親が二十代前半だったらアオイとの歳の差は十未満になるからだ。


"み、見た目が凄く若いの…っ…!頭も良くてとてもかっこよくてっっ!!"


"でたぁっ!このファザコンめっ!!シュウ!お父様にブチのめされないようにせいぜい頑張んなっ!!"


"え?え?…どうしてシュウが?"


"…わかってる。アオイ…いつか認めてもらえるまで俺…頑張るから"



ミキとシュウとのやりとりを思い出していたアオイは、ふと…我に返る。


「…?」

(そういえばさっきカイも同じような事…)