「いい汗をかいた。ただいまアオイ」


"1位"と書かれたフラッグを手にしたキュリオが一目散にアオイのもとへと戻ってきた。


「…あ…おかえりなさいお父様っ…」


初めて見た奇跡といわんばかりのキュリオの走る姿に、夢見心地のアオイは手にしていたタオルを渡すこともせず、恋する乙女のような眼差しで彼をじっと見つめている。

そして、いい汗をかいたと言いながらも何事もなかったように涼しい顔をしているキュリオ。

しかしキュリオの言葉どおり…


「…ぁっ、え…っ?」


タオルを持つアオイの手を引き寄せ、チラリとのぞく自身の形の良い鎖骨へと導いていく。

しっとりと濡れた肌をタオルが撫でると、そこに張り付いた銀の髪が自由を取り戻して風に揺れた。


(…いい匂いっ!!)


まるで蝶を誘う甘い花の蜜のようにキュリオの持つ香りが脳をじわじわと痺れさせていく。


「あぁ…気持ちがいいな。ありがとうアオイ」


「…そういえば総合で1位となった者と、組で優勝した者たちへの褒美が用意されていると聞いたが…」


「……」


頬を赤らめながら…ぼぉーっとキュリオを見上げているアオイは早速キュリオという高貴な花に魅了されてしまい、反応が遅れる。


「…最前線で見ていてくれたね。叫んでいた可愛い声も私の耳には届いていたよ」


さらに一歩近づいたキュリオに耳元で囁かれ、アオイは恥ずかしさのあまり飛び上がった。


「…ひゃっ!!
ほ、本当にお父様って何でも出来ちゃって、す、すごぉいっ!!王様って皆様こんなに運動神経がよ、よよくていらっしゃるんですかーっっ!?」


この話をヴァンパイアの王が聞いたら"俺ならもっと速く走れる"と負けず嫌いな彼はそう言ったに違いない。


「…どうだろうな…」


急に素っ気なくそっぽを向いてしまったキュリオ。
さすがに気付いたアオイはハッと青ざめてしまう。


「ご、ごめんなさいお父様…っ…別に他の王様がどうこうじゃなくて……」


慌ててしどろもどろになるアオイにキュリオの声だけが返ってきた。



「…聞くなとは言わない。だが…」



「お前の口から他の男の話が出るのは面白くない」