"位置について!よぉおおぃぃっ!!スターーートッ!!"


アレスの掛け声と共に声援が一層大きくなる。

それまで深く腰を落ち着けていたキュリオはハッと身を乗り出すと、真剣そのものといった様子の集団の中からアオイの姿を探す。


「いっけええ!!アオイ姫様っっ!!!」


別の方向から大きな声が響き、それは剣士・カイのものであることがわかる。
彼女の一番のファンである彼はアオイと並走しながら応援し続けていた。


「…私も負けてはいられないな」


キュリオはおもむろに立ち上がると…


「アオイ!」


「…っ!お父様っ…!!」


気付いたアオイは軽く息を弾ませながら嬉しそうにキュリオの前を駆け抜けていく。

視線が絡んだのもあっという間で彼女の艶やかな髪と共に赤いハチマキがヒラリと風に舞い、やがて背中しか見えなくなってしまった。

そしてアオイしか目に入らなかったキュリオにはわからなかったが…


「えへへっ…」


あまり運動が得意とは言えないアオイは小さなフラッグに"4位"という文字を翻しながら戻ってきた。額から流れる汗と蒸気した頬がなんとも美しい。


「お帰りアオイ…順位など関係ないさ。"運動会"というのは楽しんだ者の勝ちなのだから」


キュリオは手にしていたアオイの上着を彼女の肩にそっとかける。