「あぁ、くれぐれも怪我をしない程度に頑張っておいで」


「はいっ!行って参りますお父様っ!!」


輝かんばかりの笑顔がキラキラ眩しい。
アオイは羽織っていた上着を脱ぎ捨てると、その中に隠れていた肌が極端に露出を高め…


「…っ!待ちなさいアオイ!!」


「頑張りますっ!!」


慌てて引き留めようとするが、アオイは春を待ち望んでいた蝶のように勢いよく飛び出してキュリオの手をすり抜けてしまった。


「あ、あれでは下着と同じではないか…っ!」


キュリオはそれを"下着"と表現したが、実際は短めで丸首の白いコットンシャツに、ヒップのラインが少々強調された…紺色のショートパンツだ。

まさかアオイが隠れてそんなものを身に着けていたとは夢にも思わなかった彼はアオイの羽織っていた上着を手にしながら遠くにいる娘の姿を心配そうに目で追っている。


(アオイの事だ…見聞きした知識を生かして似たようなものを探したのだろうな…)


特別な環境で育ったアオイは普通の学生生活というものにとても憧れていて、周りを困らせぬよう我儘こそ言わなかったものの、やると聞いたからには形から入ろうとするのは無理もない。

その証拠に…


"アオイ姫様お急ぎください!東のテラスよりスタートとなりますのでご準備をお願いいたします!"


アオイの字で【大会本部】と書かれた仮設テントの中には魔導師・アレスが<音の魔法>を使いながら声を響かせている。


そのアナウンスが流れると従者たちの間から一斉に彼女を応援する声が上がり、誰からも愛されるアオイは皆の視線を釘づけにしてしまう。


「…ハァ…」

(アレス…あまりアオイを目立たせないでくれ…)


娘をもつ父親は皆こうなのかもしれない。
ぐるぐるに布で覆って、大事な娘の姿を男たちの目から背けたい、隠したいという気持ちがマグマのように溢れだす。

しかし、アオイの楽しそうな笑顔がそんな気を起こさせないのもまた、健全な光の下で行われる"運動会"の醍醐味なのかもしれない。


そんなキュリオの心配をよそに…