「どうぞ……、お父様」

 緊張とキュリオにより齎(もたら)された甘美なやりとりがアオイを夢見心地へと#誘__いざな__#っていく。

「ああ、頂こう」

 いつにも増して穏やかな笑みを浮かべたキュリオ。
 完璧な美を誇る彼の唇が薄く開くと、アオイの視線と指は吸い込まれるように目的地へと急ぐ。やがてアオイの指先がキュリオの口内へと侵入し、チョコレートが銀髪の王の舌へ移ると……ちゅっと小さく音を立てたキュリオの唇が名残惜しそうにアオイの濡れた指を口元から離した。

(や、やだっ……ドキドキしちゃう……)

 パッと視線を逸らしたアオイに気づいたキュリオがくすりと笑う。
 キュリオはアオイとふたりきりで過ごすこの甘美な時間がたまらなく愛おしい。

(私は幸せ者だな……)

 頬を染めて恥じらう彼女が食べてしまいたいほどに可愛い。キュリオの一挙一動に蒼くも赤くもなる愛らしいアオイをどうしてくれようか? と、喜ばせてやりたい反面、もう少し困った顔を見てみたいような衝動に駆られるのを必死で抑えつけながら口の中に広がる優しい甘さに目元を和らげる。

「実に私好みの味わいだ。作った者へ礼を言わなくては」

「ほ、本当ですかっ!?」

 花が咲いたような満面の笑みを浮かべたアオイが嬉しさのあまりキュリオの膝の上で小さく飛び上がった。

「ああ、明日にでも店の者を探し出して城に来てもらおうか」

「……えっ!?」

「さぞ愛にあふれた心優しい者だろう」

「は、はいっ……! お父様のことを考えて作りましっ……」

 気に入られ、褒められているとわかった気の緩みからアオイの口を突いて出てしまった本音が室内にこだまする。

「……っじゃなくてっっ!!」

(いけないっ! 私ったら……っ!!)

 慌てて口元を押さえるも、気づいたときにはすでに遅く、生まれ出てしまった言葉を回収することも出来ずアオイは激しく動揺をみせる。

 すると、小箱を握りしめたアオイの手を覆うようにキュリオの手がそっと重なって――


「アオイ。
すべてお前の手作りなのだろう? 気づかないふりをしてすまなかった」