「…っ待って下さいっ!」


大慌てしたアオイが懇願するような眼差しでキュリオの腕にしがみついた。


「……」


(…どうしてこうも私のアオイは可愛いのか…)


なるべく顔に出さぬよう平静を装うキュリオ。

必死に自分を引き留めようとするアオイのその手を取って、愛の言葉を囁きたい衝動に駆られる。


「い、いま心の準備、を…っ…」


まさか"アーン"をさせられるとは思っていなかったアオイの心臓はドキドキと激しい律動を繰り返している。


キュリオの傍らに佇(たたず)み、前かがみとなって自分の作ったチョコレートと対峙するアオイ。


「それでは…っ」


意を決してフォークに手を伸ばそうとすると…


「待ちなさい」


突如キュリオの声に遮られ、アオイの体が宙に浮いた。


「きゃっ」


「そのままの姿勢では辛いだろう?」


軽々とアオイの体を抱き上げたキュリオはその身を自分の膝へと運ぶと、満足したような笑みを浮かべてこちらを見つめている。


「…お父様っ…」


とたんに近づいた父親の美しい顔が間近に迫る。

どうしても胸の高鳴りが抑えられないのは血のつながらない親子だからなのだろうか?


「さぁアオイ…好きなようにするといい」


キュリオの濡れた眼差しがアオイを捉えて離さない。


「…は、い…お父様…」


まるでキュリオの魅惑の魔法にかかってしまったようにアオイの手は彼の思惑通りに動いてしまうのだった―――。