(アオイが隠そうとする理由は私か……)

 二月十四日のこの日、毎年変わらず孤児院送りにしている数多の献上品の話を女官や侍女らに聞いていたのだろう。昨夜の彼女らの行動を見るからにそれは間違いなかった。
 ふっと笑ったキュリオだが、それと同時にアオイへ気を遣わせてしまったことへの罪悪感が芽生え始める。

 コソコソと動いていたアオイの事情を知らなかったキュリオは、ただその秘密を暴こうと躍起になり苛立ちさえ覚えていた。

(……随分可哀想なことをしてしまったな……)

 ようやく合点のいったキュリオは傷ついたアオイの指先を見つめると、小箱を持つ彼女の両手を慈しむように覆い、滑るような手つきで箱を受け取る。

「せっかくだ。頂こう」

「……あっ……」

 指先を駆け抜けるくすぐったさに小さく声を上げたアオイは背後に控える女官の顔をちらりと見やり、嬉しそうに目を細めながら口角を上げて頷いた。
 そして、極めて平静を装ったキュリオは小箱をテーブルに置くと銀のフォークに手を差し伸べる。が……

「アオイは私が甘いものを好まないのは知っているね?」

「は、はい……」

 嬉しそうな表情が一変、とたんに悲しみの色へと染まってしまったアオイの顔を見ているとキュリオの心は不思議な感覚に囚われていく。
 すると、意味深な笑みを浮かべたキュリオの口を突いて出た言葉は――

「このままではとてもじゃないが、食す気にはなれない」

「……っ、そう……ですか……」

 俯きながら薄らと涙を浮かべてしまったアオイに本来ならば胸が痛むはずなのだが、それさえも自分へと向けられた特別な感情だと思わずにはいられない。

「しかし……」

「……?」

 潤んだ瞳でこちらを見つめてくるアオイの目を見返しながらキュリオはこう提案する。


「お前が私に食べさせるというのなら考えなくもない」