そして数十分後――。

 カイに抱えられるように栗毛の馬へ跨ったアオイは心地良い風を全身に受け止めながら人気の少ない道を進む。

「……学校、楽しいですか?」

 どことなく声に張りのないカイの言葉にアオイは気づくことなく嬉しそうに答える。

「うん! 友達がいるの。ミキっていう頼りになるお姉さんみたいな子と、シュウっていう運動神経抜群な男の子! ふたりとも凄く優しくて……あ、どことなくカイとアレスに似てるかも!」

 ふふっと思い出し笑いするアオイにカイは寂しそうに笑った。

「俺もアオイ姫様との学園生活、楽しみたかったなー……」

「……?」

 一緒に勉強がしたいのかと肩越しの爽やかな青年を振り返ると、彼は遠くを見ながら夢の続きでも話すように言葉を続ける。

「毎日毎日、寄りつく男たちから姫様をお守りして、登校も下校もずっと一緒で……誰の目も気にすることなく語らいあって……」

「うん、そうだね……」

(……最近一緒に過ごす時間少なかったから……カイ、寂しがってる……)

 頭上から零れる彼の囁かな望みを聞きながら、申し訳ない気持ち抱いてただ頷くしかないアオイ。

「そこまでしても姫様はきっと……そのご友人たちとどこかへ行ってしまうのでしょうね」

 そう言いながらカイは握った手綱を強く握りしめる。それは……離れて行くアオイをどこにもやるまいと、ひたすらに隠した心のあらわれのようだ。

「……っそんな、カイをひとりになんて……」

 慌てて否定するも、アオイの言葉を遮って彼の本音が飛び出した。

「本当に……キュリオ様が羨ましいです」

「……? どうして?」

「貴方を縛り付けておくことが許される、唯一のお方だから――」

 真剣な眼差しがアオイを捕えて離さない。
 視線を逸らせないでいると手綱ごと抱きしめられて。ふたりきりだからこそ許される、カイの淡い恋心をうつした一瞬の出来事だった――。