「まだ夜が明けたばかりさ。お前はもう一眠りするといい」

 キュリオは乱れた寝具を丁寧に直しながら、体に力の入ったアオイの体をリラックスさせるように……そして彼女が赤子だったころにあやしたように一定のリズムで腹部あたりを柔らかく叩く。

「……でも……」

 不安そうな眼差しが彷徨って。
 前のめりになっている父の艶のある銀髪の向こうで薄暗く靄(もや)のかかるカーテンを見つめ、再び強い眠気に襲われながらも考えを巡らせる。

(……私の勘違い? さっき、カイの声が聞こえたような気がしたけど……)

 睡魔に誘われゆっくり瞬きし始めた娘の髪を撫でながら、キュリオは最後の一押しにかかる。

「私は少し仕事がある。済ませたらまたここへ戻るから安心しておやすみ」

「……は、い……」

(……お父様が忙しいのは、私のせい……ごめんなさい)

 この五大国で人らしい生活があるのは、主に悠久の国と雷の国くらいのものだろう。
 さらに気候に恵まれ、豊かな色彩を持つ悠久の国にはたくさんの民がおり、統治する王の力量がなければ傾くのもあっという間なのだ。国を治めるにあたって公平であることがまず念頭にあるキュリオだが、そんなものに適用されない存在が目の前にあり、彼女が目の下に隈(くま)を作っているだけで眠らせるための嘘と魔法を平気でかける。
 キュリオの瞳に映る窓の外の景色はすでに青く、夜が明けたばかりという表現にはほど遠い。アオイが錯覚する視覚的魔法はこの部屋にかけているものであるため、彼女がカーテンの外を覗こうとも薄暗いままなのだ。