白いスーツに身を包んだキュリオは上着を肩に掛け、ひと仕事を終えて娘の顔を見るために自室へ向かう途中で何やら言い争う声が耳に届いた。

『もう、またですか……? それでは姫様の目が覚めてしまいますよ?』

『き、気になるんだからしょうがないだろ! 俺は魔導師じゃないから中の様子までわかんねーし!』

「…………」

 背後にキュリオが迫ることも知らず、重厚な扉を押して入ろうとする剣士と、それを止めようとする侍女。

「下がれカイ。いまのアオイに必要なのは睡眠だ。邪魔をするようなら……」

「キュ、キュリオさまっ……! 申し訳ございませんっっ!」

「…………」

 王の寝室で眠る姫君よりも蒼白になったカイが平伏すように後退し、彼を一瞥したキュリオが部屋のなかへと消えていく。
 彼は煩わしさを追い出すように閉ざした扉を背にし、小さなため息をついた。
 薄暗い室内を歩きながら一目散にベッドへと向かい端に腰掛ける。すると重みに軋んだ寝台がわずかに揺れ、眠る姫君の意識をわずかに引き戻した。

「…………、……?」

 曇りがちな光を宿した瞳は数度の瞬き後、ぼんやりと宙を漂い……やがてこちらを覗き込むキュリオへと定まる。

「……おと、さま……」

(もう、朝……?)

「気分はどうだい?」

「……? だ、だいじょう……っ……」

 慈しみを込めた手がアオイの目元を撫で、起き上がろうとする体をやんわりと押し戻される。すると何かに気づいたらしいアオイがハッと息を飲んだ。
 着替えを済ませたキュリオが二度寝をしに戻ってくるはずがなく、アオイの経験上からほぼ明確な答えが浮かぶ。

(これって……お出掛けになる前に顔を見に来てくださるときと同じ……)

「っ! ……そろそろっ……起きなきゃいけない時間、……っですよね!?」

 押し戻されて尚、慌てて上体を起こそうとした少女に振りかかってきた言葉は意外なものだった。