「あれー、こんなところにテーブルセット置いてくれたんだ! 学園も粋なことしてくれるねー!」

「ほんとだ……」

若葉の生い茂る樹木の傍。
たびたびこの場所で弁当を広げていたアオイたち。視線の先には腰をかけるに丁度良い、しっかりとした石がいくつか並んでいる。

(私の定位置はここ。アラン先生がこの上にハンカチを敷いてくれて……)

記憶を辿るように指先で石肌をなぞるが、大切な何かが抜け落ちている気がする。


"おいしそうなお弁当ですね。私もご一緒してよろしいですか?"


「……?」

そよ風にも似た心地良く優しい声にアオイは背後を振り返る。

「ん? アオイ、どうした?」

何かを探すように視線を彷徨わせる親友へミキが訪ねる。

「うん……声が聞こえた気がして……」

(……とても、綺麗な……)

「なぁもう食おうぜ! 俺腹減ってもー死にそう……」

極上の重箱を広げ、テーブルの上で死にかけているシュウへ人数分の飲み物を手にした男が冷たく言い放つ。

「……あぁ、そうしてもらえると手間が省ける」

「うっせーー!」

顔を上げる気力さえ持ち合わせていないらしいシュウは、銀髪の副担任を上目使いに睨んだ。

「ねぇアオイ……、アラン先生ってたまに怖いと思わない……?」

「そうかな、……そうかも……」

(お父様は嘘がお嫌いで、それでちょっと負けず嫌いで……)

「アオイってさ甘いもん嫌いじゃねぇよな?」

「……うん? 好きだよ、毎日食べちゃいたいくらい」