「…………」

『…………、っ……あ、あの……』

扉を開いたままの姿で固まってしまった男と数秒見つめ合うも、彼は無反応を貫く。

(……なんだかちょっと、イケない方に声をかけてしまったみたい……)

身の毛がよだつ自分の直感を信じ、長居は危険と判断したアオイは迷いなく扉の外へ逃亡を図る。

『はじめましてっ……さようなら!!』

タッと駆けだし男の足元をくぐろうとしたが……

「……お父様? 飼い猫が言う父とはヴァンパイアの王のことか?」

『……っ! わわっ……』

首元を掴まれ、体が宙に浮いたアオイと視線を合わせるマダラ。
その口調や目付きは先ほどの道化師のような表情とは打って変わり、いまは無愛想な麗しい紳士に見える。

「言葉がわからないわけではないだろう」

(神秘的な瞳……心を見透かされそう……、え? わ、わたしの言葉がわかるの……? ダルドさまと同じなのかしら……)

アオイはその証を探るべく男の頭部に目を向けた。

(お耳は……ないみたい)

「…………」

思うような返事がなかった為か、男は無言のまま室内へと歩みを進める。

『ま、待って! ここから逃がしてっ!!』

「にゃぁあ! にゃにゃにゃっ!!」

自由に入って来れた彼ならば、きっと逃がしてくれる! そう考えたアオイは力の限り叫んだ――。