不気味な笑い声が古城を駆け抜けると、眠っていた敏感な子猫の耳がピクリと動いた。

「…………?」

(ひとの声……だれ?)

眠りの世界から引き戻された子猫はぼんやりと瞳を瞬かせている。
定まらない焦点で自分の居場所を確認すると先ほどの青年が居なくなっていることに気がついた。

(……またひとりぼっち……)

見知らぬ地で人のぬくもりがないことがこれほど心細いとは思っておらず、アオイは青年が横になっていたであろうそこで体を丸めて寂しそうに鼻を鳴らした。

(……お父様に会いたい……でもこのままじゃ言葉を交わすことも出来ないっ……)

きゅっと瞳を閉じた目元からポロポロと涙が零れ、小さな前足をしっとりと濡らす。
小さければキュリオの傍に居られるなどと考え、相手を理解しようとしなかった自分の愚かさと言葉を失った悲しみがごちゃまぜになって溢れだす。

(……自分勝手でごめんなさい……っ……)


『どこにいるのかな~~?』


(……こっちに向かってるっ!)


先ほどよりも間近に聞こえる不気味な声が徐々に大きくなって、開けた選択肢に子猫は涙を振り払う。

(泣くのはあと……っまずはここから出なきゃ……!)

ピョンとベッドから飛び降りたアオイは一目散に扉へ向かって走った。
カリカリと爪で引っかきながら懸命に声を張り上げる。

『……っお願い! ここを開けて!!』

『…………』

その声に気づいたかどうかはわからないが、すぐ傍まで来ていた気配が扉の前で立ち止まり……


「アハッッ!! 面白いもの見~ぃ~つ~け~たーーーッ!!!」


『……っ!?』


バーン! と開いた扉から姿を見せたのは灰色と銀色の外套に身を包み、狂気に満ちた眼差しの冥王・マダラだった――。