そんな中、想いを持て余した男がひとり。

この時間の彼女はキュリオの胸に抱かれながらこんな風に無防備な姿をよく晒しており、木々に紛れながらこっそり寝顔を見に悠久を訪れていたのがティーダだった。

「やっと眠ったか……いつもなら昼寝の時間だもんな」

青年は愛おしげに子猫へ唇を寄せ、胸元に押し当てられた柔らかい肉球に頬をすり寄せる。

アオイを胸に抱き眠るキュリオがずっと羨ましかった。
そして誰の許可を得るでもなく好きなときに触れ、好きなときに口付を落とす。

「ってこいつ……昼飯食ったのか?」

大事なことに気づいたティーダは子猫のアオイをベッドへ寝かせると静かに部屋を出て行った。


「僕ってすごぉく勘がいいんだよねぇ~♪」


もはや体の一部と言っても過言ではない大鎌を指先でまわし、鼻歌交じりに古城をぶらつく一人の青年。
すると向かい側から歩いてきた男のヴァンパイアが彼に気づき、瞬く間に目を見開いては冷や汗を流しながら通路の端で頭を深く下げた。


(……あの大鎌は冥王マダラ……っ!! な、な、なんでここにっっ!!)


「…………。やだなぁー、そんなに怯えないでよ~」

「……っっ……!!」

彼の注意が自分に向けられただけで息の音が止まってしまいそうなほどに震えだす若いヴァンパイア。早くその場から立ち去って欲しいと祈りながらも、彼は致命的な弱点を犯してしまった。


「それと一言いうとさぁ~~……」


急激に青年を取り巻く空気が殺気にも似た冷気に変わり、クスクス笑う美しき死神の手が大鎌の動きを止めた。


「……マダラ"様"でしょ? 躾のなってないヴァンパイアは死ななきゃ治んないのかなぁああーーー?」


「ヒッ!!!」


「でも今日は許してあげるぅーーー!! せいぜい馬鹿な君たちの王に感謝することだねーーー!!」