わずかに開いた隙間に体を滑り込ませた子猫は暗がりのなかをトボトボと歩く。

(……ここのお部屋なんだろう?)

ぼんやり薄暗い部屋を見渡してみる。
先ほどの部屋と同じくらいの広さだろうか。
可愛らしいテーブルに大きな天蓋のベッド。そして花の香りはどうやらテーブルの上の花瓶からの放たれているようだった。

しかし、きわめて低い視線から見ているアオイには周りの状況がよく見えない。

(あのテーブルの上……のぼれるかな?)

普段なら絶対にやらないし出来ないことも、自分は猫なのだからと言いきかせ……

(えいっ!)

思ったとおり、いままでにない跳躍力が体を運び、内心"やった!"とはしゃいだ子猫。が……


――ゴンッ……ボテ……ッ


(……痛ったぁああっっ)

目測を誤ってしまったアオイはテーブルの裏側に激しく頭を打ち付けてしまった。
あまりの衝撃に目からは火花が散り、脳天がズキズキと痛む。

「おい、にゃん公。猫のくせにどれだけとろいんだよ」

倒れたままお腹をみせ、苦痛にもがいている姿を彼が呆れたように見下していた。

「……っ!」

(お、起きちゃったーーっ! あわわっっ)

「ったく……そんなに花が好きならくれてやるよ。ほら」

片手で子猫の体を抱きしめたティーダは逆の手で花を一輪、花瓶から抜き取ってアオイの鼻先に近づけた。

「…………」

(あ、これ……)

嗅いだ事のある匂いだと思っていたが、よく遊びに行く川の畔に咲いている花とまったく同じことに驚く。

「ははっ懐かしいか?」

スンスンと鼻を鳴らす子猫をみてクスリと笑い、また歩きだした青年にハッと凍りつく。

(……わ、わたしここから出ようとしてたんだったっっ……!)

包み込むような彼のあたたかさに絆(ほだ)されそうになりながらも再びベッドからのスタートになってしまった。


「そう構えるなって。しばらくは部屋のなかで遊んでろ。見つかったらまた捕獲されて終わりだからな、お前」