アオイは低い視点からあたりを見回すと…


『…花の匂い?』


微(かす)かに妖艶な香りを捉えたピンク色の鼻先がヒクヒクと動いた。


(むこうからだわ!外に通じているかもしれない!)


子猫は入口の扉とは真逆の方向へと走り出す。
すると濡れた鼻に感じる穏やかな風の流れ。

徐々に色濃くなっていく香りに引き寄せられるようにアオイはどんどん部屋の奥へと足を進める。


(…扉?開いているみたい…)


あまりに近づき過ぎて、その扉の全貌は見えないが、何やら花の装飾が施されているように見えた。


『殿方のお部屋の扉にしては可愛らしい…』


アオイは一度背後を振り返り寝台を見つめると…
細身の彼は先ほどと変わる事なくその場に身を留めていた。
熟睡しているその姿と、窓から差し込む月の光を見て納得する。



『もう夜だもんね…』