アオイは手足の裏に青年の体温をじんわりと感じながら彼のみぞおちあたりで"お座り"の姿勢を続けている。

飽きるほどその身を撫でていた手は今は止まり、上機嫌な笑みを浮かべたまま青年は静かに目を閉じていた。


『…眠ってしまったみたい…』


先程から一定のリズムで上下する体に揺られているとアオイまで眠気に誘われてしまいそうだ。


『…どれくらい経ったんだろう…』


極度の緊張による疲労と傍らの寝息がアオイの思考を鈍らせる。

子猫はフルフルと頭を振ると…


(…お父様もダルドさまも、きっと探してる…出口を探さなきゃ)


アオイは目を閉じているその美しい顔へと近づき、おそるおそる手を伸ばして頬を撫でる。


『助けてくれてありがとう…私、行かなきゃ』

(もう首輪はダルドさまに外してもらおう…)


ちょんちょん、と彼の肌の感触を楽しんでいる間もなく乗せられた子猫の前足が元の位置へと戻るが…その表情はどこか寂しそうだった。


『…さようなら』


ピョンと彼の胸元から飛び降りたアオイ。
しなやかな足腰がその振動を吸収し、まるで全身がバネのように躍動していく。


『こんなに広いお部屋だもの、どこかの窓が開いているかもしれない…』