『…え?』


子猫のアオイはジタバタする手足の動きを止め、青年の瞳をじっと見つめると互いに視線を逸らさぬまま数秒が過ぎて…
やがて青年はその端整な顔にふっと笑みを浮かべた。


「…なんてな…独り言だ。聞き流してくれ」


『……』


青年はひとつの扉を押しのけると重厚感のある音が鳴り響き、黒と赤でシックにまとめられた部屋へと足を進める。


「腹は減ってないか?」


『い、いいえ…あまり』


言葉が通じるわけはないが、なぜかそう返してしまったアオイ。
すると…


「…ミルクなら飲めそうだな」


と、あながち外れてはいない言葉が戻ってくる。

青年は子猫のアオイの眉間を優しく指先で撫でながら暗い室内へ入ると、テーブルに置かれていた燭台に蒼白い炎が灯る。