「……」


「皮を剥いで肉はそのまま新鮮なうちに頂きましょうよー」


「子猫の皮を剥いだところで大した毛皮にもならんだろ。もう少し熟するまで待ったらどうだ」


長い足を組んでいる青年の前で不毛なやりとりを続ける二人のヴァンパイア。
彼の前に置かれた台座の上には震える美しい子猫が一匹、上目使いで彼らの話に耳を傾けていた。


「熟し過ぎて毛皮…肉が硬くなったらどうすんのよ?」


「お前は子猫の上質な毛皮が欲しいだけだろ…」


『私…殺されちゃうんだ…っ…』


見知らぬ地で一人寂しく命を閉じることがこんなにも悲しい事だとは思わなかった。
最期の時はキュリオの腕の中で…と願っていたアオイはまさかの展開に目頭が熱くなる。


「…お前アオイみたいな毛色してるな…」


じっとこちらを見つめる赤い瞳の青年が指先で子猫の目元を優しく撫でる。

射抜くような眼差しとは裏腹に、青年の穏やかな声がアオイの心を落ち着けていく。


『…私を知っているひと…?』


アオイに古傷などあるわけがないが、撫でられた目元が記憶を呼び覚ますように疼いた。


"…痛いか?もう少し我慢できるな?"


※本編340ページをご参照下さい。


一瞬通り過ぎた彼の優しい声と眼差しにやはり覚えのあるアオイ。


(私を知っているだけじゃない…きっと私もこの人を知ってる……)