『ダルドさま、お願いです!気づいて!!私ですっ!!』


アオイは叫びながらダルドの首元に飛びつくと、今度は懇願するように顔と顔を摺り寄せる。


(…彼女が僕の名前を知ってるのはなぜ?)


「…キュリオ、アオイ姫は?」


子猫の柔らかな毛に癒される暇もなくダルドが部屋を見回しながら訪ねる。


「…それが…
眠っている間にいなくなってしまってね。嫌われてしまったかな…」


そう言ったきり椅子に背をつけて遠くを見つめるキュリオ。
ほんの少しのわだかまりが予想外の方向へと進み、解決すべき事が幾重にも連なって二人の距離はますます遠ざかっていく。


「…この猫はいつからいるの?」


『…ダルドさま…?』


「…目覚めたら私の腕の中にいた。アオイを抱きしめていたと思っていたのだが…それすらも夢ではないかと思えてきたよ」


理由も説明せず自分の部屋で眠るようにと記した手紙。
頬を膨らませて詰め寄られるならまだしも…彼女は食事も喉を通らず、悲しみに頬を濡らしながらキュリオの帰りを待っていた。



(…さんざん傷つけておいて許してくれ…では都合がよすぎるな…)




『お父様…』

(…ずっと一緒にいられるなら小さいままでいいなんて願ったから…っ…)