「…ごちそうさま」


そう呟いたアオイの手が握りしめていたものはナイフでもフォークでもなく己の寝間着だった。
この時のアオイは一般的に見れば中学生になっているくらいの年頃なのだが、"王の娘"として大切に育てられた彼女は城の外での教育を一切受けた事がない。

遊び相手&世話係のカイ、教育係のアレスが常に彼女を取り巻いているのだが、寝食を共にすることは禁止されており…
キュリオ不在時はこうしてアオイだけが食事の席についており、寂しい雰囲気が彼女の表情に暗い影を落としている。


「…姫様っ…」


アオイの後方で待機していた女官が嫌な予感に彼女の皿を覗き込むが、パタンと閉じた扉がその声を遮ってしまった。


「…姫様、夕食もほとんど口にしておられないわ…これではお体が…」


「…えぇ…キュリオ様、どうかお早く……」


綺麗に飾りつけされたジルお手製ディナーを片付けながら、女官と侍女が心配そうに扉を見つめた―――。