「わ、わかりましたっ…お父様、せめて…っ…燭台に火を…」


「…?視界を奪われて随分怯えているようだね…」


震える声で懇願するアオイの上からキュリオの上機嫌そうな声が降り注いだ。


「……っ」

(…お父様…っ楽しんでいらっしゃる…!)


「…大丈夫、私にはちゃんとお前が見えているよ」


「闇にも緋色にも染まらない真っ白なお前が――」



―――運動会は中断したものの、個人で優勝を勝ち取ったキュリオが褒美として選んだのは…

"城に仕える全ての者へ長期休暇を与える"といった従者たちへの労わりだった。


しかし、それは彼にとってとても都合の良いもので…


アオイの願いを聞き届ける代わりにキュリオが要求したものに彼が真に欲するものがあった。



「…アオイ…約束を覚えているね?」



「…お父様との約束…」



"…いいだろう。なら私の望みを言おう"


"…はい、私に出来る事でしたら…"


"もちろんだ"


"…褒美として私は皆に休暇を与える。そして皆が戻るまでの間、お前の五感を満たすのは私だけだ"



(…私が逃げようとすればお父様の想いが黒く重く圧し掛かってくる…)


(…どうやって受け止めたらいいの…?)




―――今はまだ受け止められないでいるアオイだが、これから待ち受けている狂気にも似たキュリオの愛が徐々に彼女の思考を甘く痺れさせていくのだった―――。





悠久城の大運動会編【完】