ニヤリと口角を上げたスカーレットへ別の声が捲し立てるようにはしゃいだ。


「ちょっとスカーレット!!すごいじゃないっっ!!!」


「マゼンタ…お前はもう着替えのか。って…いっつも仮装状態だったなお前は!」


「…へ?」


マゼンタは面食らったように口を開けて自分を見渡してみる。
たしかに明るいピンク色のヒラヒラドレスに大きなリボン、綺麗に巻いた髪からキラリと覗くのはクロワッサンとも見てとれる謎のぶら下がり物だ。


「し、失礼ねっ!!女男みたいなスカーレットにはこのおしゃれの良さがわかんないだけよ!!ってか!!今日でその姿はもうお終いなの!!!」


恥ずかしさと急ぐ気持ちがごちゃまぜになったマゼンタは鼻息を荒くしながら思いきりスカーレットを睨みつけている。


「…またそれか。いい加減…」


「あーもーーーっ!!面倒くさいっ!!!」


「な、なんだよ…っ…!?」


地団駄踏んだ五の女神が長身の兄に飛びかかると、年老いた男も手伝い、スカーレットの身ぐるみを剥がし始めた。

そして…


「おい…」


「何よ、結構様になってるじゃないっ♪それもそうよね!キュリオ様からの贈り物ですものっ♪」


「…なんだって?」


上質なシルクの立て襟シャツ。そして首元に輝く真紅のブローチとまわりを囲むのは…美しい白を引き立てる赤い縁取りに装飾の美しい正装と呼ぶに相応しい見事な着衣だった。
さらには肩で揺れるものがその存在感を強く主張している。


「…緋色のエポーレット(肩章)…」


「とてもよく似合っておりますぞ!スカーレット殿!!」


旧知の仲であるブラストは涙まで浮かべる始末だ。彼の涙からも今までのスカーレットの不憫さが垣間見えた。

そしてそれを根底から覆すべく…階級を現すエポーレット(肩章)がスカーレットの肩で誇らしげに揺れている。


「…なぜ今頃…、キュリオ様が声明って…?」


ここでようやく絡まった糸をほぐすようにスカーレットが周りの声に耳を傾け始めた。


「なぜって…それはわかんないけど…」


喜びも束の間、女神一族の存在を疎ましく思っていたはずのキュリオがなぜ一族の改革に臨んだのかわからない。
誰もが上位を狙い、互いの粗探しも当たり前な女神一族。その中で最も脆く、狙われやすいのが直系に生まれた男の存在なのだ。


「……」


ただ一人、キュリオの声明に心当たりのある人物は…とある少女を思い浮かべ、胸を痛める。





(…姫様…貴方様の想いがキュリオ様の瞳にどう映られているか…)