そのあとも、靴箱につくまでに拓実に渡されたチョコは27個。


さらに、声かけるだけで、結局何も渡さないままそそくさと去ってしまう女子もいた。


きっとあの女子たちの勇気があれば簡単に30個は超えていただろう。




「ホント、毎年多いね、拓実は」


苦笑するしかない。




「俺あんまり甘いもの好きじゃないんだけどな」


たははと軽く笑いつつ、でも周りの女子に気を使うように小さな声で言う。



「そういえば、そうだったねー」




そういいつつ、横に立つ靴箱から靴を取り出している拓実を見る。






………訂正。

後ろにこけて、箱や包み紙で埋まっている拓実を見る。




「あー、また来ちゃったかー……」





来ちゃったかーじゃないだろ。



なんだよ。このバレンタインテロ。



てか、この学校の女子生徒、一体何人だ。





「はあ……」




深いため息をついて拓実に手を差し延べる。




「ありがとっ」



拓実は、よっ、と勢いをつけて起き上がる。





「さってと、このチョコどうしよ」




僕もそれは思ったよ。



軽く周りを見渡す。




「あ!いい物ある!」


僕は靴箱の隣に置いてある大きな紙袋を見つけた。




ぱっと手に取ると、はらっと落ちる紙。




「ん?なんだこれ。」


拓実がその落ちた紙を拾い上げる。




『拓実くんへ

毎年大変そうなので今年は皆のチョコが入るように紙袋を用意したよ。

実はチョコ嫌いなの知ってるしね。

やよい』



そんな文章。


やよいって……学級委員の藍沢やよいだよな………




さすが、気が利くな。





って、



「たっ、拓実!放課後、藍沢のところ行かないよな!?」



僕と付き合ってるとはいえ不安だ。



藍沢は頭もいいし、性格もいい。


かわいいし、モテるし。



付き合えばお似合いだなんて皆そう思ってる。



でももう僕の彼氏なんだから相手にするなんて論外ーーーー







「ん?行くよ?」



「え?」



「だって、わざわざ気も使ってくれて、現にこうやって助かってるじゃん

気持ちだって無下にはできないよ」



優しくにこっと笑う。



その笑顔で一瞬許してしまいそうになる。





「で、でも!」



「ここで、きちんと断った方がいいだろ?
このあと付きまとわれても困るし」



「う……うん………」


煮え切らない態度をとる僕の頭をそっと撫で、



「付きまとわれたりなんかしたら、こうやって美樹と話したり、触れ合ったり出来ないだろ」


もう一度微笑む。





もうこの笑顔は反則だ。



「わ……分かったよ

で、でもちゃんと断ってよ?」



「当然だろ?

美樹が一番に決まってる」


そう言ってくしゃっと僕の頭を撫でる。




それだけで幸せ。



やっぱり僕は単純なのかもしれない。



やっぱり僕は甘いものが好きなんだ。