暫くして、わたしの嗚咽と雨音だけが満ちる空間に割って入ってきたのは、人の声。


「おーい、おーい」


小さな声が段々と近付いて来て、わたしと功はそっちに目を凝らした。


「あ、いたいた。あなた、いましたよ」


カッパを着たお婆さんが傘を持って歩いて来る。


その後ろからお爺さんも手を振りながらやって来た。


この人達…さっき一緒に電車に乗ってた人だ。


「あなた達ね、見慣れない制服だし、ここら辺の子じゃなさそうだから気になって。おまけにこの雨でしょう?良かったら家に来ない?」


人の良さそうな笑みを浮かべて、お婆さんが傘を渡してくれた。


どうしようと迷っていると、功が頭を下げて立ち上がる。


「じゃあ、お願いします。すみません…迷惑かけて」


「いいのよ。お姉ちゃんもおいで」


手招きをされて、慌てて立ち上がり頭を下げると、お婆さんはまた笑った。


ローファーが濡れないように、お爺さんが持ってきてくれた長靴を履いて、整備されていないデコボコ道を歩く。


長靴なんて、いつぶりだろう。


山から流れた水が田んぼに向かって流れて行く。


その間を歩くわたしは1面の水たまりをわざと跳ねさせた。


もちろん、お婆さん達にはかからないようにね。